「はじめまして」(※APHクロスオーバー)

コルダとAPHのクロスオーバー話。土月(月土)前提、ローデさんと蓮さんがお話してるだけ。

その人に初めて出会ったのは、月森が渡墺して数週間後のことだった。
  その日、月森は中心街から少し外れた広場を訪れていた。立地の関係なのか、この場所は休日であっても人は疎らで静かだった。喧騒が苦手な月森にとって、閑静なここは比較的気に入っていた。
  月森は片隅に設置されたベンチに腰掛けると、譜読みを始めた。すると、突然頭上から「はじめまして」という言葉が降ってきた。見上げると20代後半くらいだろうか、物腰柔らかな眼鏡の男性がそこに立っていた。
「……?  何か御用、でしょうか」
  月森は少し困惑気味にドイツ語で返答した。するとその男性は、月森が手にしていた楽譜を覗き込んできた。
「……何か、音楽をされるのですか?」
「ええ、ヴァイオリンを……」
  その言葉を聞くなり、その男性はふわりと微笑んだ。――優しそうな笑み。かつてこの地に留学した先輩の顔が、ふと月森の脳裏を過った。
「音楽は素晴らしいものです。音楽のない生活なんて考えられません」
  音楽は素晴らしい。そう断言した男性の言葉に、月森も頷いた。たくさんの仲間に出会わせてくれた、そして何より「彼」に出会わせてくれた音楽は、かけがえのない素晴らしいものだと、今なら断言できる。
「ところであなた、随分と流暢に話されますがこちらへ来て長いのですか?」
「……いえ、少し前に日本から留学してきました」
「留学生の方ですか。日本から……」
  男性はその場で少しの間考え込んでいた。もしかしたら日本に友人でもいるのだろうか。そんなことをぼんやり思っていると、男性が再び口を開いた。
「そういえば、名前を窺ってもよろしいでしょうか」
「……月森蓮です」
「月森蓮さん。どこかで聞いたことが……」
「……」
「ああ、思い出しました。日本の友人に教えてもらいましたよ。……とてもいい演奏をするのだと」
  月森は内心驚いた。てっきり母――浜井美沙のことを言われると思っていたからである。
  男性の友人は日本で月森の演奏を聴いたことがある、と言っていた。それは恐らくあのクリスマスコンサートのことだろう。あのときのことは今でも鮮明に覚えている。
「是非一度、あなたの演奏を聴いてみたいものですね」
  男性はにっこりと笑うと、その場から一歩後ろへと下がった。
「忘れていました。私はローデリヒ。ローデリヒ・エーデルシュタインと申します。以後、お見知り置きを」
  それでは私はこれで、と男性――ローデリヒは立ち去る。まだ少し肌寒いウィーンの風が、月森の肩を掠めていった。