一面に広がる青い空、高く昇った太陽。快晴の空の下、遊我と学人はふたりで昼食を摂っていた。膝上に風呂敷包みを乗せた学人が、遊我のすぐ隣でおにぎりを口にしている。もぐもぐと咀嚼する彼の横顔をなんとはなしに眺めていると、不意に蒼い双眸と視線がかち合った。
「……遊我くん? 私の顔になにかついていましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
にっこりと笑みを浮かべると、学人は柔らかく目を細めた。その穏やかな表情がとても綺麗で、好きだな、と遊我はふと思う。
「そういえばさ、こないだ調理実習があったんだ」
「ほう。なにを作ったのですか?」
「ごはんを炊いておにぎりを作ったのと、……あとはお味噌汁だよ」
「なるほど。私も去年、同じようなことをした覚えがあります。……遊我くんは、うまく作れましたか?」
「うーん。食べられなくはないんだけど、ちょっとべちゃっとしちゃったんだよね。学人みたいにうまくはいかないなって思ったというか……、料理って難しいね」
言いながら、弁当箱の玉子焼きを箸でひと口に切り分ける。そのまま口に運べば、ふんわりとした優しい甘みが舌先に広がった。するとお茶で軽く喉を潤した学人が、「そうですね」と呟いた。
「恐らくは、炊飯時の水分量が多かったのでしょう。もしくはおにぎりを握る際、手につける水が多かったというのも考えられますね」
「そうなんだ?」
「ええ。何事もそうですが、料理も一朝一夕ではうまくなりませんからね。練習あるのみです。……きっと、遊我くんにもうまく作れますよ」
お裾分けです、と。そう言って、学人が口をつけていないおにぎりをそっと遊我の目の前に差し出した。以前食べた学人のおにぎりの味を思い出して、遊我は「ありがとう」と声をかけてからそのひとつを手に取る。
程よく効いた塩味が、素朴な味わいだ。手頃なサイズの塩おにぎりをひと口頬張ると、遊我はふ、と息をついた。
「……今日のは学人が作ったの?」
「はい。……どうです? お口には合いましたか?」
「うん。……とってもおいしいよ、優しい味がして」
「ふふ、それはよかったです」
学人の慈しむような微笑みに、心にあたたかな熱が灯るのを感じた。料理は作り手の想いを反映すると言うけれど、このおにぎりにもきっと学人の人となりが滲んでいるのだろう。いつか自分のためだけに作ってくれた料理が食べてみたい、なんて。新しい願望が、遊我の胸の内で密やかに誕生する。
すると不意に、学人の瞳がわずかに見開かれた。それからなにを思ったか、彼の手がすっと遊我に向かって伸びてくる。学人はほんの少しおかしそうに、けれども嫌味ひとつなくふっと口角を吊り上げた。
「……口許についていましたよ、ご飯粒」
「えっ?」
「まったく、遊我くんときたら。……そういうところも、可愛らしいとは思いますが」
露骨に年下扱いされている気分になって、なんとなく面白くない。遊我はわざとらしくむくれた素振りをとって、先ほど遊我の口許に触れた側の手首をそっと掴んだ。そのまま数粒の米を、彼の指先ごと舌で掬い取る。ちゅ、と軽やかなリップ音がふたりの間でかすかに響いた。
「ごちそうさま、学人。すっごくおいしかったよ」
「な、な……遊我くん……っ!?」
瞬く間に朱の差していく白い頬を見とめて、遊我は静かに目を細めた。遊我に腕を掴まれたまま挙動不審になる学人は、見ていて本当に飽きない。くるくると移り変わる表情も、端正な顔立ちも、なにもかも。どこまでも可愛らしくて、愛おしかった。
桜色の唇に口づけてしまいたい、などとは今の状況では口が裂けても言えないけれど。放課後のお楽しみかな、と数時間後に期待を膨らませながら、木漏れ日色の瞳に愛しい年上の少年を映し出していた。