サンセット・シーグラス

大学生設定
チャたら3開催記念ワンドロライ【お題:海】

照りつける南国の陽射しが身を焦がす。ゴーハ市とはまた違った、空からまっすぐ降り注いでくるような暑さに、遊我はふ、と息をついて汗を拭った。
  大学も夏季休暇に入り、そろそろ一週間が経つ。夏の盛り真っ只中な今日この頃、外に出るのも億劫なほどだ。そんなわけで冷房の効いた部屋でのんびりしたり、ロードと戯れたりしたいところなのだが、現在はゴーハ市から遠く離れた南の地へと観光に訪れていた。
  暑いですね、と隣で爽やかな笑みを浮かべるのは、小学生の頃から仲の良い――そして今は恋人としての交際関係にある、蒼月学人である。そもそもこの旅行を計画したのも、彼が発端だ。曰く、「せっかくの夏休みですから、海にでも行きませんか」とのことだった。
  遊我としても学人と出かけるのは楽しいし嬉しいのだが、なにもこんな真夏に暑い場所へ出かけるなんて、と正直思わないでもなかった。それに遊我が泳げないのは、学人とて重々承知のはずだ。せめて涼しい水族館なんてどうかな、と提案してみると、「それもいいですね」と思いのほかあっさりと承諾された。
  そうしてあれよあれよと話は進み、気がついた頃には大規模な水族館と綺麗な海のある南国への緻密な旅行計画が立てられていたのであった。
  ホテルでチェックインを済ませ、荷物を置いた今、ふたりは近くの浜辺にまで足を伸ばしている。とはいっても泳ぐ気はさらさらないため、水着は持参していない。それは学人も同じのようで、彼の手荷物もさほど多くはなさそうだ。
  波打ち際に近づけば、静かな波が足元の砂を浚っては引き返していく。程よく冷たい水温が火照った肌に心地よくて、思わず目を眇めた。
「わあ……綺麗だね、海」
「そうですね。水も透き通っていますし、なにより陽を受けて輝いていて……とても綺麗です」
  おもむろにその場へと屈んだ学人は、水面に手を浸し、少量の海水を掬い取って戯れている。いつになくはしゃいでる様子の学人を微笑ましく思うとともに、美しいと感じた。南の海よりも、なによりも。すると唐突に、遊我くん、と下から呼びかけられた。どうしたの、と遊我は返事をして、学人の目線まで腰を落とす。
「ほら、見てください。美しい翠色ですよ」
「わ、ほんとだ。ええと……こういうの、なんていうんだっけ」
「シーグラスですね。元々は海に流れ出したガラスが削れて、角が取れて……こうして浜に打ち上げられるのです」
  学人の手のひらの中にある小さな翠のガラスが、陽光を反射して煌めいている。指で転がすそのたびに表情を変えるまるいガラスに、遊我もまた目を見開いた。
「きらきらしてて、すっごく綺麗だね」
「ええ。まるで遊我くんの瞳のように……とても素敵です」
  目を細めて微笑みを浮かべる学人に、胸がきゅっと掴まれたような思いを抱いた。ありのままに感情を伝えてくれる学人が愛おしくて、つと彼の頬に触れる。ほんの少し触れるほどのキスを落とせば、どこか面映そうに「遊我くん」と学人が呟いた。

  それから少しの間、遊我と学人は浜辺でシーグラスを拾い集めた。大きいもの、小さいもの。世界へと繋がる海が運んでくれた色とりどりの宝石は、ふたりだけの夏の思い出だ。
  陽の沈みゆく海を臨みながら、遊我は指先で摘んだ蒼いシーグラスをそっと翳してみる。今は隣で静かに寝息を立てる愛しいひとの、優しい光を傍に感じて。