ご褒美アイスは涼しい部屋で

アスファルトすら焦げるような熱が、身体中に突き刺さる。外気に纏わりつく湿気は確実に蒼司の体力を奪って、もはや日陰であるか否かはさして関係なかった。
 腕にぶらさげたビニール袋すら、いやに重たく感じる。中身はいくつかの飲み物と、ふたり分のアイス。コンビニから菩提樹寮までは大して離れていないものの、溶けてしまわないかだけが心配だ。
 確かに地元も暑いけれど、それとはまた違った夏がここにはある。電車と飛行機を乗り継ぐほどの距離なのだから、気候が異なるのも当然といえば当然だ。宮崎と横浜の往復生活もさすがに慣れてきたとはいえ、関東の暑さには未だ慣れない。
「蒼司ー!」
 聞き慣れた声が耳に届き、振り返った。見れば、拓斗が人目を憚らずに手を大きく振っている。どうにも怠い身体を引き摺って、蒼司は拓斗の元へと向かった。――夏休みの課題に追われている最中の拓斗がなぜここにいるのか、という素朴な疑問はさておくとして。
「拓斗、課題は?」
「んー、まだ途中。でも、キリのいいとこまでは進めたから!」
「なら、いいんだけど」
 燦々と降り注ぐ陽光にも負けぬ勢いで、拓斗が親指を立てて笑う。本気を出せばきちんとこなせるはずなのに、なぜかこの幼馴染は毎度のごとく、夏休みの課題を後回しにするのだ。だからあまりギリギリになりすぎないように進捗確認するのが、蒼司にとっても半ば夏休みの定番と化していた。
 すると拓斗がわずかに首を捻り、不意に立ち止まる。どうしたのか、と思いつつ蒼司もまた立ち止まると、今度は拓斗の手の甲がそろりと頬に触れた。
「っ、なに……」
「蒼司、具合悪い?」
「いや……まあ、暑いし……」
「そっか。……やっぱ迎えに来てよかったかも」
 そう言って、拓斗が蒼司の手を取る。人前で手を繋ぐのは気恥ずかしい、と頭では思えども、だからといって敢えて咎めるほどの気力は、今の蒼司に残されてはいなかった。
 早く帰ろ、と告げる拓斗の声に小さく頷く。心なしかひとりで歩いていたときよりも暑くて堪らないような気がしたが、すべては酷暑のせいだと思い込むようにした。
「……拓斗」
「ん?」
「アイス、拓斗の分も買ってきたから。……今日の分が終わったら、一緒に食べよう」
「やった! じゃあ、頑張んないと!」
 繋いだ手を力強く握られて、蒼司は思わず笑みがこみ上げた。アイスだけでも本気を出してくれるこの単純さが、案外可愛いところなのかもしれない。そんなことをふと思いながら、拓斗の手を少しだけ強く握り返した。
 帰ろう、帰ろう、涼しい部屋に。アイスとともに、夏の陽射しに負けてしまう前に。茹だるような横浜の夏は、まだまだ終わる兆しを見せない。

2025/08/31
僕スタ2にていただいたお題より。【お題:地元とは違う暑さにダレる拓蒼】