別世界に住むダブルデビルが、オリジナルである悠享の世界へ時々遊びに(ちょっかいを出しに)やってくる設定の話(2018年1月発行『蒼色遊戯』と同設定です)
纏わりつくような湿気が、なんとも不快で堪らない。この世界へ頻繁に訪れるようになり、早数ヶ月。どうやら今は、「梅雨」と呼ばれる時期らしい。早々に嫌気が差してきて、アルは思わず眉をひそめた。
「あーもう、サイアク……」
「仕方ないだろ。前も言ったけど、今はそういう季節なんだってば」
「知っているさ。もう何回も聞いたし」
不快を隠すことなく零せば、すぐ傍で雑誌に目を落としている享介が言葉を返してきた。片割れであるエルは今、ここにいない。というのも、悠介と共に買い出しへと行っているのだ。
自分たちの世界とは異なる気候な上、片割れもいないとなれば、あとはもう享介で遊ぶくらいしかすることがない。暇をもて余したアルは、ソファに腰かける享介に後ろから抱きついた。
「……ねえ、享介。オレと遊ばない?」
「なに、俺いま忙しいんだけど。ていうか、そんなに梅雨がイヤならあっち帰ればいいのに」
「ヤだよ、暇だし」
「はいはい、そうですかー」
享介は相変わらず興味なさげで、そのことが一層アルを面白くない気分にさせた。俯いたままの享介の顔をぐい、と向かせると、アルはそのまま目の前にきた唇へと顔を寄せる。
舌を忍ばせて口腔をまさぐると洩れる、享介の声。不満げにしながらも応えてくれる享介に気をよくしていれば、不意にすこん、という軽い音と共に頭が叩かれた。
「アールぅー!」
「ああ、おかえり」
「オレの享介に手ぇ出さないでってあれほど!」
声の方を見遣ると、買い出しに出ていたはずの悠介がじとりとアルを睨んでいる。どうやら、凶器は丸めたチラシの束らしい。まるで威嚇する犬だな、と鼻で笑って見せれば、享介が口許を押さえながらぽつりと呟いた。
「……俺じゃなくて、エルにやりなよこういうのは」
「そうだよ、アル。また享介にばかり構って、ずるい」
拗ねたように口を尖らせながら、エルはとことことアルの傍へと寄ってくる。
――ああ。なんと可愛いのだろう、この片割れは。ヒトのかたちに姿を変え、今は触れやすくなっているエルの頭を撫でてやれば、彼はすっと目を細めた。
そんな双子の悪魔をよそに、享介は思わず大きな溜め息を零す。そしてすぐ隣に、荷物を置いた悠介が腰を下ろした。
「はあ、疲れた……。おかえり、悠介」
「ん。……ただいま、享介」
ぽつん、ぴちゃん。窓の外でまた、雨滴の跳ねる音がする。だが雨の音さえ聞こえないほど、今日もこの部屋には声が溢れていた。