黒双子星(悠享)SSまとめ

「黒双子星」という双子星派生パロディ設定悠享の小説まとめページです。
黒双子星の設定についてはこちら(Privatterに飛びます)

今はただ、

ずしりとした鉛のような胸の痛みと、嘔吐感すら覚えてしまいそうになるほどの不安、焦燥。片割れが傍にいないというだけで、こんなにも苦しい。瞳から零れ落ちる雫は止まることを知らず、辛うじて羽織った布にぽたりぽたりと落ちて、吸い込まれてゆく。
  嗚呼、どうして自分はこんなにも弱いのだろうか。何時からこんなにも、弱くなってしまったのだろうか。唯一無二の半身が離れてしまうだけで、自然と涙が零れてしまうなんて。
  兄が残した紅い花弁だけを握りしめ、享介はひとり、狭い場所で片割れの帰りを待つ。悠介、と呟いた声は彼の耳に入ることなく、静かで冷たい空気に溶けて消えた。

2015/11/02

Kiss in the dark

グラスに注がれた深紅の液体を、享介はゆっくりと嚥下した。それは喉を刺激するような、僅かな辛みを含んでいる。グラスに口をつけ、もう一口。口に含んだそれを飲み込むことなく、享介はこちらを見つめている半身の唇へと口付けた。
開かれた唇の隙間から口に含んだままの深紅を流し込めば、直ぐにこくりと嚥下する音が聞こえた。音を確認すると、享介はそのまま舌を悠介の口内へと忍び込ませる。舌先を悠介のそれに絡めれば、そこからは焼けるような熱を感じた。
  思考さえもとろけてしまうようで、けれど心地よくて仕方がない。だってこんなにも傍に悠介がいるのだ。このまま溶けてひとつになれたなら、どんなにも幸せだろうか。何もいらないのだ。悠介さえいてくれるならば、それで。
  ふたりだけの箱庭に響く淫靡な水音が、やけに耳に届く。このまま悠介に触れられて、暴かれて、そして――。享介はそっと唇を離し、小さく呟いた。
「……もっとちょうだい、悠介」

2015/11/04
同名のカクテルが題材。

彩り

じっとしててね、と言われ、享介は大人しく椅子へと腰掛ける。そのことを確認すれば、目の前の悠介は、手にしていた大振りの箱を傍らへと置いた。
  享介はその箱の中身を、既に知っている。だっていつものことなのだ。ふたりで出掛けると決めたときにはいつも、片割れはこうして享介を座らせる。そうして箱の中から数多くの装飾品を取り出しては、享介のことを彩ろうとするのだ。
  正直なところ、あれもこれもとつけてくるものだから、動きにくいことこの上ない。だがこれも、悠介が享介に対して向けてくれる愛情のひとつだと、享介は知っていた。だから何も言わないし、嫌だとも思わない。
「……でーきた!」
  悠介を眺めているうちに、どうやら装飾が終わったようだ。満足のいく出来だったようで、いつも以上に朗らかな笑みを浮かべている。
  レースや生花で飾られた自身の現状を見ながら、ふと思う。どうして悠介はいつも、自分自身に対しては装飾を施さないのだろうか、と。享介は口を開く。
「悠介はおめかししないの?」
「オレ?  オレはいーの。享介がキレイなら、それで」
nbsp;投げかけた問いには、予想以上にあっさりとした答えが返ってきた。その口振りに、享介は小さな不満を覚える。片割れを彩りたいのは、綺麗でいてほしいと思うのは、自分も同じであるはずなのに。それなのにどうして、悠介は拒むのだろうか。
「……だめ、悠介もおめかししようよ」
  再度口をついて出た言葉は、うっすらとした陰が含まれた。そのことに気がつき、享介は口を噤む。折角出掛けるのに、自分の不用意な言葉で悠介を傷つけて、嫌われてしまったら。想像しただけで、耐えられそうになかった。目元からはじわりと涙が滲み、つう、と頬を伝う。けれどその雫は直ぐに指で掬われて、目元には口付けが落とされた。
「泣かないで、享介」
  顔を上げた先にいた悠介は、怒ってなどいなかった。それどころか降り注ぐ陽光のように、柔らかな笑みを湛えている。
「ゆう、すけ……?」
「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ。別にイヤなわけじゃなくって、ただ……オレは享介がキレイなら、笑顔でいてくれるなら……それだけで満足なんだ」
  ひとつひとつ丁寧に心情を吐露する悠介に、思わず涙が零れる。今度のそれは悲哀に満ちたものではなく、嬉しさが溢れたものだ。
  悠介、と。享介は小さく片割れの名を呼ぶ。その呼びかけに応えてくれた片割れに、享介は近くに咲いた一輪の花を手折り、彼の柔らかな髪へとゆっくり差し込んだ。
「……うん、似合ってる」
  鮮やかな紅の花弁が彩る唯一無二の半身を見ながら、享介はふわりと微笑んだ。

2015/11/04

ひとしずくの「あい」

ぽたり、ぽたり。瞳から零れるは、大粒の涙だ。
  ――享介、と。愛しい半身からそう呼ばれるだけで、胸の奥から温かな感情が溢れてくるようだった。嘗て狂おしいほどに焦がれたその存在を近くに感じ、享介は有り余るほどの想いを外へと漏らす。頬を伝い、零れ落ちた雫は、やがて享介の掌へと落ちる。
 瞬間、雫はふわりと柔らかな光を放った。そうしてどこまでも透き通るような色をした宝石が、享介の掌から姿を現す。悠介への想いを体現したかのような宝石は、内部までもが煌めきに満ちていて。
「……悠介、愛してる」
  享介は静かに頬を緩めると、自身の零した結晶を愛しい兄へと差し出した。

2015/11/07

タイトル未定(悠享/黒双子星)

寒い朝、少し早い時間。享介がふと目を覚ますと、隣では悠介が穏やかな寝息を立てている。普段ならば悠介は自分よりも早くに起きて花たちに水やりをしに行くのだが、どうやらその時間よりも早くに目が覚めてしまったらしい。
  数日振りに見る、悠介の寝顔。その表情がいつもより少しだけ幼く見えて、思わずくすりと笑いが込み上げた。
「……ゆーすけ」
  名前を呼んだところで、彼は未だ夢の中の住人。ただ眠っているだけなのになんだか淋しさが込み上げてきて、二人分の体温で温まったベッドの中、享介は更に悠介の元へと身を寄せる。そして薄く開いたままの唇へと、そっと口を運んだ。
  舌を口内へ滑り込ませ、わざとらしく水音を立てて。けれど悠介は一向に目覚めようとしない。こんなにも近くにいるはずなのに、どうして悠介の声が聞けないのだろう。時折漏れる兄の息を詰めるような声が、より一層享介の心を虚しくさせた。
「悠介、悠介……」
  いつの間にか涙がぽろぽろと零れ落ちてきて、享介の頬を冷たく濡らす。半身の名前を呼ぶ度に、その声には嗚咽が混ざって。淋しさを紛らわせるため、悠介にもう一度口づけようとした、そのときだった。
「っ、ん……」
  正面から降りてきた、温かな唇。触れるだけのキスのあと、その唇は享介の目元へと移動して、雫の溢れ続けている瞳へと落ちる。
「……オレの知らないとこで泣かないで、享介」
  言葉と共に抱き締められた温もりは、何よりも享介の欲しかったものだった。

2015/12/26

あかいうみ(双子星悠介×黒双子星悠介)

刺さるような視線に気が付き、悠介は黒い衣を翻すように振り向く。そこには幾度か出会ったことのある、自分とよく似た姿かたちの彼が立っていた。
「……なにか用?」
  正直なところ、彼は苦手でしかなかった。真っ直ぐに射抜くような視線も、護れる力さえ持たないというのに曲げようとしない強い意志も。あからさまに機嫌の悪い声で訊ねれば、彼は少しずつ距離を詰めるようにこちらに向かって歩いてきた。
  黙って歩みを進める彼を見て咄嗟に後ずされば、ひたりと何かが背に触れる。――壁だ。そうこうしている内に彼は目の前にまで到達し、悠介の脚の間に脚で楔をした。
「……離れて」
  呟いた声は、少しばかり震えてしまっただろうか。けれどそのようなことを必死にひた隠し、目の前の彼を一瞥する。きっと離れるつもりはないのだろう、彼は。だがしかし、自分をこうして壁に縫いとめてまで、何がしたいのかまでは分からずにいた。
  すると不意に、彼が懐から小瓶を取り出した。そしてその小瓶を、彼は一気に呷る。彼の口角から零れるのは、含み切れなかった「赤色」。――嫌な予感がした。逃げろ、逃げろと悠介の頭の中では警鐘が鳴り響く。けれど縫いとめられた今の状態では、それは叶うことのないことであった。
  からん、と彼の投げ捨てた空の小瓶が地面にぶつかる音がする。そのまま彼に胸倉をぐいと掴まれ、引き寄せられた。されるがまま口づけられ、彼の口から液体が流れ込んでくる。
  ああ、やっぱりだ。芳醇な甘みと、ほんの少しの辛み。鼻から抜けるように香る、噎せかえるような葡萄の香り。いちばん嫌いで、いちばん口にしたくない酒。だというのに、また飲まされてしまった。それもよりによって、彼に。
「……ん、んんっ」
  これ以上はいやだと、悠介は彼を必死に押し返した。けれど絡みつく彼の熱い舌に翻弄され、腕に力が入らない。それどころかより一層引き寄せられ、為すすべなく感じてしまう自分がいる。
  溺れたくないはずなのに、拒絶したいはずなのに。けれども紅い海と白い彼から逃れる術を、今の悠介は知る由もなかった。

2015/12/26

おやつタイム

穏やかな陽気に包まれる箱庭。花畑の近くにテーブルセットを広げて、ふたりはティータイムを楽しんでいた。半身の名を口にすれば、彼はごく自然に口を小さく開ける。
  先程ふたりで拵えたばかりの、柔らかなシフォンケーキ。一口大に切り分けて生クリームを添え、悠介はそれを享介の口元へと運ぶ。ぱくり、とシフォンケーキを口にした享介は、ゆっくりとそれを咀嚼し始めた。
  そんな半身を眺めながら、悠介は自身の淹れたハーブティーを少しばかり口にする。そしてティーカップの滑らかな手触りを感じながら、目の前の享介へと問いかけた。
「……享介、おいしい?」
  悠介の言葉に、彼はもぐもぐと口を動かしたまま、穏やかな表情を浮かべて頷く。そんな半身を見つめているだけで、悠介は空腹感すら満たされてしまいそうなほどの充足感を覚えた。

2015/12/31
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