夕に融ける[遊→了(未満)]
からん、と音を立てて転がってきたのは、古ぼけてちびた色鉛筆だった。引き出しを開けた拍子に出てきたそれには、どこか見覚えがある。
――オレンジ。橙。ゆうひのいろ。
件の事件のあと、遊作は周囲の大人たちから、沢山のカウンセリングを受けさせられた。恐らくはその一貫で、絵を描いたときに使ったものだ。
柔らかな陽のひかりに包まれた住宅街。曲がり角。そしてその先にあったのは、雪のようなしろとあお。
脳裏に焼き付いていたはずなのに、靄のかかった光景。思い出したくて、けれどどうしても思い出せなくて、幼い遊作は記憶を頼りに橙の色鉛筆を画用紙に走らせたのだった。
だが、今ならはっきりと思い出せる。事件の前、彼に出会ったあの瞬間を。ずっと求めてた、会いたかった、友になりたかった存在を。そんな彼こそが、遊作にとって忘れるはずのない「声」の持ち主であったのだから。
今度はきっと、手を離したりしない。いつか彼が奈落を越えてきてくれたように、何度でも手を差し伸べてみせるから。手のひらに拾い上げた色鉛筆を、そっと夕陽に翳した。
ずっと私の傍にいて
子供の頃は、体調を崩して寝込むのが嫌で仕方なかった。あまり家に帰ることのない父を、ただひとりベッドで待つことしかできなかったから。父の助手は時々看病に来てくれたけれど、それでもやはり彼らには迷惑を掛けられなかった。
熱に歪む視界の先では今、遊作が忙しなく動き回っている。どうやら彼にとっては、看病という行為自体が不慣れらしい。時折考え込む仕草を見せながらも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた。大丈夫か、と不安げに揺れる瞳にそっと頷いてやれば、今度は慈しむような手つきで頭を撫でられる。与えられる心地よい温もりを享受しながら、了見はすっと目を細めた。
――今ばかりは、甘えてみてもいいだろうか。幼い自分にはできなかったことを、どこまでも優しいこの男に対して。緩慢な動作で腕を伸ばし、指先で彼の頬に触れる。そして熱に掠れた声のまま、了見はそっと唇を動かした。
千蓮の遊了さんは『風邪を理由に』をお題に、140字でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/386208)
どうしても言えない言葉
ああ、まっすぐに向けられる翠が身体中に突き刺さる。いたむ心を見てみぬふりして、私はそっと背を向けた。
しかたないだろう、だって今更彼の手を取る資格など有るはずがない。てのひらの温かさなど、知っていいわけがないのだ。
射るような視線から今すぐ逃げ出したいのに、彼に絡め取られた私はひとつも動けやしなかった。
※あいうえお作文
千蓮の遊了さんは『どうしても言えない言葉』をお題に、140字でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/320966)
事故から始まる[先天性女体化遊♀×了]
謂わば、これは事故だ。足許を取られ、目の前で盛大に躓いた彼女を引き留めるつもりが、勢い余って逆に尻餅をついてしまうなんて。――柔らかな桜色の唇が、私のそれに一瞬重なったなんて。
眼前にある遊作の睫毛がふるりと震え、頬は瞬く間に朱く染まっていく。その様は正に愛らしく可憐で、思わず見惚れそうになった。だが偶然とはいえ、交際すらしていない男の唇が触れるなど、きっと彼女も好ましくはないだろう。そう思い、謝罪の言葉を口にしようとしたそのときだった。
「……りょ、了見! 責任は取るからな!」
「せ、せきにん……?」
「了見の唇を奪った責任だ! 付き合ってくれ!」
「待て待て! どうしてそうなる!」
痛いほどにまっすぐ突き刺さる、澄んだ新緑の視線。責任を取るなら寧ろ私のほうではないのか、などと。内心頭を抱えながら、改めて彼女と唇を重ねるまであと五分。
あなたは1時間以内に1RTされたら、一方が女体化した設定でキスから関係が始まる千蓮の遊了の、漫画または小説を書きます。(https://shindanmaker.com/293935)
一番は私でしょ?
例えば、親しい者と話すとき。例えば、美味しいものを口にしたとき。きみの持つうつくしい新緑が大層色鮮やかに煌めくのを、私は知っている。
「目は口ほどにものを言う」との言葉もあるけれど、きみの瞳こそ正しくそうであるに違いない。豊かに感情を映す翠は、今日なにを捉えるのだろう。
――などと考えてみたところで、一等輝くきみの瞳を独占できるのは結局、私ひとりなのだけれども。
あなたが千蓮の遊了で書く本日の140字SSのお題は『一番は私でしょ?』です(https://shindanmaker.com/613463)
一番は、
例えば、親しい者と話すとき。例えば、美味しいものを口にしたとき。きみの持つうつくしい新緑が大層色鮮やかに煌めくのを、私は知っている。
「目は口ほどにものを言う」との言葉もあるけれど、きみの瞳こそ正しくそうであるに違いない。豊かに感情を映す翠は、今日なにを捉えるのだろう。私であればいいのに、なんて。そんなこと、思う権利などないというのに。
『一番は私でしょ?』の差分。お題から逸れた気がした初稿。
このぬくもりから抜け出せない[遊×先天性女体化了♀]
例えば、私を見るなり輝き増す翠だとか。朝日を浴びながら、狭い布団にふたりで包まるひとときだとか。随分と男らしく成長した腕の中だとか。
世界を手放したくても手放せない理由を拾い上げるたび、その多くがきみへと繋がっていることを思い知る。水面に映るこの月を、きみも見ているだろうか。
千蓮の遊了♀さんは『このぬくもりから抜け出せない』をお題に、140字でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/386208)
お泊まりセット
日毎に増えていく遊作の私物を横目に、寝支度を整える。そろそろ彼の収納を設えてもいいかもしれない。何気なく思いを巡らせていると、不意に見慣れないものが了見の目に留まった。
うさぎの耳を模った白いカチューシャに、ふわふわとした装飾付きのプラグ。こんなもの、一体いつの間に持ち込んだのだろうか。「これはなんだ」と写真付きのメッセージを送れば、「可愛いだろ?」「お前に似合うと思って」などと彼は宣う。
なにが「似合うと思って」だ! 第一、可愛いのはお前のほうだろう! 了見は半ば憤りながらPDAの電源を落とし、パソコンへと向かう。そして遊作へ着てほしい衣装を探すべく、インターネットの海へと飛び込んだ。
千蓮の遊了さんは【お泊まりセット】をお題にして、140字以内でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/428246)
酔った翌日[先天性女体化遊♀×了/年齢操作有]
陽光が瞼を刺激し、ゆっくりと意識が浮上していく。現を取り戻すのと引き換えに、了見は酷く鈍い痛みを感じていた。昨晩、珍しく酔い潰れるほどの酒を浴びたのは、ひとえに年下の恋人が飲酒を許される歳になったからだろう。
鈍痛を訴えかけてくるのは頭と、それから腰。――腰? 二日酔いとはまるで関係のない痛みにはたと気づき、了見は思わず首を捻る。するとすぐ傍にある温もりが、もぞもぞと身動ぎした。
「ん……。おはよう、りょうけん」
起き抜けの少し掠れた声。一糸纏わぬ姿の彼女。思えば、自身もまた衣服を身に着けていない。そこで漸く、了見の脳裏に昨晩の出来事が蘇った。
「ゆ、ゆうさく……昨日、」
「ふふ、ちゃんと覚えていてくれたのか? ……すごくかわいかったぞ」
彼女が成人するまでは手を出すまいと、大切にしようと、そう心に決めていたはずなのに。まさか手を出される側になるとは、誰か思うことだろう。天使のような笑みを浮かべる少女に頭を抱えながら、しかし結局は全部受け入れてしまうのだ。
だってただひとりの、愛おしいひとなのだから。
千蓮の遊♀了へのお題は、『酔った翌朝』です。(https://shindanmaker.com/633927)
探し物はなんですか
探し物はここにあるのに、肝心の奴がここにいない。見つかったら教えてくれと言い出したのは、他でもない彼だというのに。
大体なんなんだ、普段はこれでもかというほどに押しが強いくせして。いつまでも待っているから。そうやって一度引き下がった彼の直向きな翠が、今もなお脳裏に焼き付いて仕方ない。
探し物は見つかった。いや、見つかってしまった。認めざるを得ないほど、いつしか心の中で大きく育ってしまっていた。だから次に相まみえたときこそ、彼に突きつけてやろう。
欄干に軽く身を預けながら、陽光を浴びる海を臨む。背後から耳に届いた足音に、ゆっくりと振り向いた。
「それで、……見つかったのか?」
「……ああ」
タイムリミット。――悔しいが、私は彼に惹かれている。
千蓮の遊了さんには「探し物はここにあるのに」で始まり、「私はこの人に惹かれている」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば2ツイート(280字程度)でお願いします。(https://shindanmaker.com/801664)
※この人→彼に変更
if
もしもあの日、きみと出会わなければ。父が事件を起こしていなければ。今ごろ私は、きみと同じ衣服に身を包んでいたのだろうか。いつしか見慣れてしまった紺のジャケットに袖を通し、ふたつ下のきみと他愛もない言葉を交わして。あり得たかもしれない日常は、しかしながら単なる可能性の世界だ。
歴史に「if《もしも》」など存在しない。交わるべくして交わった運命の針は、鈍い音を刻みながらも漸く時を進め始めた。だから私は、今日もゆく。己が使命を果たすために。
千蓮の遊了さんは「制服」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう(https://shindanmaker.com/430183)