「こちらご注文の品です!」

先天性女体化百合/遊♀了♀

高く結わえた白銀の髪が、酷く熱の籠もる風で揺らめく。照りつける陽光の下、了見は自身の手のひらで軽く扇いでいた。
「お待たせ」
  鉄板の上で軽やかに弾むのは、眼前に立つ少女の声。キッチンカーの内側で玉のような汗を滲ませながら、遊作は作りたてのホットドッグを手渡してきた。すると不意に、彼女の柔らかな肌を伝う雫が目に留まる。それはぽたりと滴り落ちて、そのまま控えめな胸元へと入り込んでいった。
  無造作に捲られた袖に、緩く開かれた襟ぐり。幾ら猛暑日とはいえ、無防備すぎやしないだろうか。愛らしいこの子が、客を装った変な輩に声を掛けられはしないだろうか。些かの不安を感じながらも、了見は彼女の差し出す品をそっと受け取った。
「ありが……って、なんだこれは」
「気づいたか?  俺から了見へ、特別サービスだ」
  手許の品を見、そしていま一度彼女へと視線を戻す。訝しげに見据えた先の翠玉はどこか得意げに煌めき、まっすぐ了見へと向けられていた。
  そう。確かに遊作から受け取ったのは、注文通りのホットドッグであった。――ただしそこに、ケチャップとマスタードでハートが描かれていなければ、の話だが。
「……私は普通のホットドッグを頼んだつもりだが?」
「え?  愛をたっぷり込めたのに、まさか受け取ってくれないのか……?」
  遊作は目を見開き、次の瞬間には既にしょぼくれた表情を浮かべている。それはまるで、項垂れる仔犬の耳が見えるのではと錯覚してしまうほどに。漸く豊かになった彼女の感情表現は、いつだって了見の心を翻弄していく。
  どうして遊作は恥ずかしげもなく、直向きな想いを伝えてくれるのだろう。などと考えども、結局は彼女から向けられる一途な愛が、嬉しくないはずないのだ。
「ん……わかった、わかった……から」
  ああ、やはりこの子には敵わない。一層輝きを増す新緑の瞳に、心の中で呟くのは幾度目かの敗北宣言。うっすらと耳先を朱に染めながら、了見は湯気の立つホットドッグに齧りついた。

2020/08/10
千蓮の遊♀了♀さんは『こちらご注文の品です!』をお題に、140字でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/386208