ダイヤモンド・リリィ

旅の途中、シューティーはとある公園へと休憩がてら立ち寄っていた。普通より広めのそこには湖を思わせるような広い水場があり、きらきらと光る水面にはスワンナとコアルヒーの親子が仲睦まじく泳いでいた。その光景を写真へと収めようとシューティーはいつものようにカメラを構える。
  一枚。角度を変えて、もう一枚。三枚目を撮り終えたところできちんと撮れているかを確認しようとした、その時だった。
「おーい、シューティー!  シューティーだよな!」
  見知った声に振り向くと、サトシがこちらに向かって走ってくるところであった。そこには他の二人はおらず、あのピカチュウも連れてはいなかった。
「なんだ君か。それに、一人なのか?」
  相変わらず騒々しいと思いながらも話しかけると、これまた相変わらずの笑顔で答える。
「ピカチュウたちはポケモンセンターで、デントとアイリスは近くの町で食材を買ってるんだ」
「ふーん、そうなんだ」
「それよりさ、久々に会ったんだしバトルしようぜ!」
「悪いけど僕は君の相手をしてるほど暇じゃないんだ」
  そう言ってシューティーはサトシを放置して、手元のカメラを確認する。サトシには悪い気がしたが、そろそろ写真の整理をしたいと思っていたのだ。ここ最近撮った写真の整理もまだ出来ていないし、それに例の写真の整理もしたい。
  例の写真――それは決してサトシに見られてはいけないのだ。見られたら最後、それこそサトシには会えないだろう。だから取り敢えずさっき撮った写真の確認だけして立ち去ろうとシューティーは考えていたのだ。
「シューティーっていっつも写真撮ってるよなー。今度は何を撮ったんだ?」
「君には関係ないね」
「ちょっとくらい教えてくれてもいいだろ?」
「駄目なものは駄目だ。君はプライバシーの侵害という言葉を知らないのか?」
「知ってるけどさ……。気になる」
「君に見せる義理はない。だからいくら頼まれても君には見せない」
「隙あり!」
「あっ!」
  話している間にシューティーの手元にあったカメラに手を伸ばしていたサトシは、ここぞとばかりにカメラを取った。突然のことでシューティーは呆気にとられ、その隙にサトシはカメラを弄っていた。途中で我に帰ったシューティーはサトシを止めようとしたのだが、サトシも漸くカメラの使い方が分かったらしく、写真を見始めた。
「へえー、こんなの撮ってるんだなー……」
「おいっ……!」
  暫くは感心しながら写真を見ていたサトシだったのだが、あるとき突然動きが止まった。
「なあシューティー。これ……なんでこんな……」
「馬鹿っ!  返せ、見るな!」
「なんで俺ばっかり映ってるんだ……?」
「~~~っ!  好きなんだよ!  君が……サトシのことが!  旅の記録を撮ってるふりして君のことを撮ってしまうくらいはね!  だからもう……僕に話しかけないでくれないかっ……!」
  シューティーはサトシの手元のカメラを奪い取ると、そそくさとサトシの横を通り過ぎる。サトシは通り過ぎたシューティーを追う様に向き直ると、遠ざかっていく背中へ叫んだ。
「待てよっ……!」
  サトシのその言葉にシューティーは振り返る。サトシは俯いていたが、かすかに覗く肌色は赤く染まっていた。
「俺、びっくりしたけど……その、嬉しかったんだ。ずっと避けられてたから俺、嫌われてるかと思ってたけどそうじゃなかったんだな……」
「サトシ……!」
  シューティーはサトシのもとに駆け寄り、後ろから強く抱きしめた。
「ねえ、君は僕のこと好き?」
「よく、わからない……」
  サトシはシューティーの問いに対して小声でそう呟いた。シューティーはサトシを自分の方に向かせると、自分の唇をサトシのそれに軽く押し当てた。
「んっ……。何して……」
「嫌?」
「嫌じゃなかった……と、思う……」
「そう。ねえ、もう一回してもいい?」
「何を?」
「何をって…キス。基本だろ?」
そう言ってシューティーはもう一度サトシに口付ける。
「な……んぅ!  ……ふ……

  先程より少し長めのキス。シューティーは軽いリップ音と共に唇を離した。
「サトシ……好きだ、好き。愛してる。ねえ君は?」
「言わないとダメか?」
「当たり前だろ」
「……好き、なのかな。多分……うん、好きだ。俺シューティーのこと好き」
「そ、うか……」
  サトシの予想以上の素直さに、シューティーは顔が赤くなるのが自分でもはっきりと分かった。
「シューティー、顔真っ赤だけど大丈夫か!?  熱でもあるのか?」
 突然赤面しだしたシューティーに、サトシは自分の額をシューティーの額にくっつけた。そしてそのことにより、シューティーの体温が更に上昇した。
「~~~っ!  君のせいだ君の!」
「へ?  俺のせい?」
「君が……、っ、可愛いのがいけないんだ……」
「なあ、聞こえなかったんだけど何て……」
「うるさい!  なんでもない!」
  そう言ってシューティーはサトシから顔を離し、赤くなるばかりの顔を隠すように顔を逸らした。
「そういえば君、二人のところに帰らなくていいのか?」
「二人ならもうすぐ来る頃だと思うぜ!」
「じゃあ僕もそれまで待っていることにする」
「そっか!」
  サトシは屈託のない顔で笑った。

  それから数分も経たないうちにデントとアイリスの二人がこちらに向かってくるのが見えた。サトシは二人に手を振って応えたのち、再びシューティーの方へ向き直った。
「じゃあ俺行くな!」
「そう。それなら僕も行くよ」
「そっか。また会おうな!」
「サトシ、」
  シューティーは遠ざかろうとするサトシの腕を引き、自分の方へと引き寄せる。
「?」
  何も分からないサトシにシューティーは耳元で囁いた。
「愛してる」
「~~~っ!」
  それだけ言うとシューティーはすっと離れて歩き出す。サトシは何も言えないまま、ただそこで顔を赤く染めて立ち尽くすことしかできなかった。