やがて扉は開かれる[遊(→)←ガク]
弾む声、過ぎる足音。淡々と業務を熟しながら、室外の喧騒にふと顔を上げる。何気ない事柄の端々に彼の面影を探してしまうのは、ここ最近できた癖だった。
――会いたい、だなんて。いつからこんなにも、女々しくなってしまったのだろう。この胸奥に秘めた想いを彼に暴かれる前に、どうか。
千蓮の遊ガクさんは「片想い」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう(https://shindanmaker.com/430183)
独り占め
ボクの恋人は、ひどく頑張り屋だ。元来の面倒見の良さも相まって、彼は常に引く手数多である。それは断って然るべき雑用まで、請け負ってしまうほどに。
研究所のソファで寝息を立てる彼の髪を、そっと撫でる。本当は倒れてしまう前に、休むことを覚えてくれたらいいのだけど。それでも頑張りたいのならば、ボクは傍で見守っているから。
だから寝顔を堪能するくらい、許してほしいな。
貴方は千蓮の遊ガクで『独り占め』をお題にして140文字SSを書いてください。(https://shindanmaker.com/375517)
リボンを結んで
戴き物なのですが、と前置きをした学人に手渡されたのは、焼菓子が入った袋だった。丁寧にラッピングされたそれは、蒼月のお弟子さんからの土産らしい。だが到底食べ切れない量のため、周囲にもお裾分けしているのだそうだ。
しゅるり、淡紫のリボンを解いてみる。そして彼の左手を取って、薬指へと緩く結んだ。
「……なにしてるんです?」
「ん? わかんないならいいや」
きょとんとした表情もまた、酷く愛おしい。ただこれからも、彼の穏やかな日常の中に居続けられますよう。時を刻むごとに重みが増すこの感情に、きみはまだ気づかなくていい。
千蓮の遊ガクさんは「指輪」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう(https://shindanmaker.com/430183)
あと何回、きみと
お腹すいたなあ。自転車を押して歩く彼が、なんとはなしに呟く。買い食いは校則違反ですよと窘めれば、今更でしょと隣から笑い声がした。
「放課後デート」と称してふたりで下校するようになったのは、果たしていつからだっただろう。少しでも長く一緒にいられるよう、できる限りの遠回りをしたし、時には買い食いや寄り道もした。これは校則違反だと、私とて頭ではきちんと理解しているのだ。それでも彼と共有するひと時は、何物にも代えがたかった。
我ながら、ひどく身勝手だと思う。けれども学年の違う私たちには、残り数ヶ月しか猶予がないのだ。あとどのくらい、彼とこうして帰り道を共に歩けるのだろう。コンビニ行こっか、という提案に頷きながら、そっと手のひらを結んだ。
今日の千蓮の遊ガクのお題は「お腹が空いて寄り道をする」(https://shindanmaker.com/804823)
ふたり、並んで
すぐ傍にある学人の手が、近づいては遠ざかる。時折向けてくる僅かな視線に、こちらが気づいていないとでも思っているのだろうか。手を繋ぎたいならばそう言えばいいのに、真面目な彼は人目を気にしているに違いない。可愛いなあ、なんて感情を年上の少年に抱くなど、自分でも思ってもみなかった。
そっと手のひらを浚ってやれば、瞬く間に彼の頬は色づいていく。人前ですよ、という予想通りの台詞も、羞恥と歓喜の滲む瞳では説得力の欠片もないけれど。
今日もまた、ボクは蒼い瞳に心動かされる。
千蓮の遊ガクさんは『触れそうで触れない距離』をお題に、140字でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/386208)
蒼い月のうさぎさん
月の明るい夜は、決まって彼を思い出す。名は体を表すとはよく言うけれど、蒼い月の如く凛とした佇まいは、常に美しくボクの目に映った。だから驚きはすれども、然程の違和感はなかったのだ。見ないでくださいと弱々しく告げた彼の、本当の姿も。淡いひかりを纏う彼は、まさしく月の兎そのものであった。
千蓮の遊ガクさんは「不思議」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう(https://shindanmaker.com/430183)
ここで待っている
ふと見上げると、月が浮かんでいた。日毎に早まる日没時間に、季節の移り変わりを感じる。思えば随分と風も冷たくなって、そろそろ冬支度を始めてもよい頃合いだ。
なんとなく手がさみしさを覚え、あてもなく宙を掻く。しかし求めた行き場はそこになくて、仕方なしに裾を掴んだ。いつかこの手があたたまる日がくるのだろうか。今はただこの地で君を想い、君を信じて待つことしかできない。
「……月が綺麗ですね、遊我くん」
貴方は千蓮の遊ガクで【ここで待ってる】をお題に140字SSを書いてみて下さい。SSでもOK!(https://shindanmaker.com/570790)
おかえりなさい
ボクが遊びに行くたび、「いらっしゃい」とにこやかに迎え入れてくれた日々を今になって思い出す。あれから随分と時が流れて、背だってたくさん伸びた。結局君を追い越すことはできなかったけれど、少しでも物理的な距離は縮まったはずだ。
貰いたての鍵を差し込み、扉を開ける。しっかりと繋いだ手は、離さぬままに。君とふたりで、おかえりなさい。――今日から始まる新たな生活。
千蓮の遊ガクさんは『おかえりなさい』をお題に、140字でSSを書いてください。(https://shindanmaker.com/386208)
食事、それからデザート付き
うっすらと涙の滲む翠の瞳が、ひどく訴えかけるような視線を寄越す。目の前でもごもごと唇をもたつかせるさまを、学人はただ静かに待っていた。
ややあってそっと口を割り開いた遊我の、その中を覗き見る。口内になにも残っていないことを確認したところで、ようやく息をついた。
「……はい。きちんと残さず食べられてえらいです、遊我くん」
「う……、やっぱりピーマンなんておいしくないよ……」
げんなりとした表情をまるで隠す気がない遊我に、思わず笑みがこぼれる。それでも手料理を食べきってくれたことに感謝しながら、このあとたくさん甘やかしてあげようと心に決めた。
――まずは手始めに、食後のお口直しから。
あなたは千蓮の遊ガクで【うるんだ瞳で / お口のなか、よく見せて】をお題にして140字SSを書いてください。(https://shindanmaker.com/780366)